はじめに:要塞は建てた。次は届ける番だ
飲食店向けモバイルオーダー MasterOrder を、個人開発で約2年かけて作ってきました。セキュリティ、安定性、使いやすさ――ブログ第1本で書いた「三原則」に沿って、できる限りの 要塞 は建てたつもりです。第2本では、Firestore の読み取り課金との泥沼も踏みました。
でも、使われなければただの自己満足です。コードがどれだけ美しくても、卓に届かなければ意味がない。リリースに向けて、いま私が向き合っているのは 営業 ― いや、もっと泥臭い言い方をするなら 「届けるフェーズ」 です。
1. エンジニアが直面する、営業の壁
個人事業主として動いている以上、大手のような広告費も、営業部隊も、代理店ネットワークもありません。できるのは、自分の足、自分の言葉、自分の熱量だけ。
だから戦略はシンプルです。1店舗ずつ、顔を見て、話を聞いて、入れて、直す。 派手なマーケティングより、ローラーに近い地道なアプローチ。マーケ用語で言えば ドミナント戦略 ― いきなり全国ではなく、ひとつのエリアを深く取りにいく。
そのターゲットとして私が選んだのが、地元の 中野 です。思い入れがあるから、というだけじゃない。中野は、飲食店の属性が狭いエリアに凝縮された、日本一のテストベッド(実験場) だからです。
2. 中野に同居する、3つのまったく違う「魔境」
同じ「中野区」でも、店の形・客層・ピークの殺気がまるで違う。ここを押さえると、MasterOrder がどんな店でも回るかが一気に見えてきます。
① 中野駅周辺 ― ディープ&個人店の聖地
レンガ坂、北口のサンモール裏。個人経営の居酒屋や、ちょっとディープな飲食店がひしめくエリアです。客層はカオス――スマホ慣れした若者もいれば、常連のシニアもいる。
ここで試されるのは 使いやすさ(三原則の③) と、狭い卓でのオペレーション効率。画面が1秒でも迷うと、店のリズムが崩れる。UI の「当たり前」を、現場の雑音の中で叩き上げる場所です。
② 東中野 ― 落ち着いた大人の街
住宅街の落ち着きと、お洒落なバル、何十年も愛される老舗が共存するエリア。客層も落ち着いていて、店の「空気」を壊すものは嫌われます。
ここで問われるのは 信頼性 と、お店の雰囲気に馴染む静かな広告デザイン。無料モデルだからこそ、広告の見せ方ひとつで「安っぽい」と思われたら終わり。要塞の内側がどれだけ堅くても、外から見える体験が合わなければ入ってもらえない。
③ 中野坂上 ― ビジネス街のランチ戦場
オフィスビルが立ち並び、平日昼下がりにサラリーマンがドッと押し寄せる。1分1秒が売上に直結する、過酷な環境です。
ここが 動作の安定(三原則の②) の本番。ピーク時に落ちたら、もう信頼は戻らない。同時会計、注文の殺到、タブレットとスマホの混在――インフラとアプリの両方が、ランチの30分で裁かれます。
3エリア、3つのまったく違う「魔境」。中野だけで、飲食店の属性をほぼ網羅できる。だからこそ、全国に行く前に ここで揉みほぐす という判断が、理にかなっていると思っています。
3. 「中野の飲食店に足で届ける」という覚悟
派手なマーケより、この街の飲食店に順番に会いに行く。それだけです。
地元だからこそ分かるものがあります。「あのラーメン屋のピークの動き」「あのバルの店主のこだわり」――資料には載らない肌感覚。顔が見える距離だから、導入後のフィードバックがその日のうちに返ってくる。それをその夜のうちにコードに反映する。個人開発のスピード感は、ここでしか出せない。
MasterOrder は 基本料金無料(広告モデル) です。お店側の固定費リスクは、できる限りゼロに近い。「騙されたと思って使ってみてください」――言い方は砕けていますが、本音は リスクを背負わせたくない ということです。熱量だけで飛び込むのは、余裕がないからじゃなく、本気で使ってほしいから です。
4. 中野から世界へ
まずは中野という最強の実験場で、MasterOrder を徹底的に実戦投入する。居酒屋の狭い卓、バルの静けさ、坂上のランチ地獄――全部クリアしたとき、初めて「全国に展開しても恥ずかしくない要塞」になっているはずです。
中野の個人店が元気になれば、街はもっと面白くなる。私はその起爆剤を、エンジニアとして、営業として、地元の住人として届けたい。
技術だけでは届かない。だからこそ、中野の街を、1店舗ずつ、足で届けていく。それが今の私の、いちばん狂気じみていて、いちばん理にかなった戦略です。